ところが現在、職を求めて上京した人たちの多くは家庭をつくり「都会の人」になっている。全国的に少子化が進んだこともあり、次の世代は都会を離れようとしないし、地方から東京へ出てくる流れもかつてほどではなくなった。

となると、いつ東京へ戻れるのかわからない中で異動を繰り返さなければならないNHKの職員たちは、無縁社会の寂しさを一般の人よりも切実に感じているはずなのだ。

そう考えると、哀感漂う番組の色調は、日本人一般の心象というよりも、転勤を繰り返さなくてはならないエリートサラリーマンたちの寂しさを映しているのかもしれないのだ。

いま私は、職を求めて上京してきた人の「次の世代は都会を離れようとしない」と述べた。周囲を見ても、都会に定住する傾向は年ごとに強まっているというのが実感だ。同じ東京の中でも、慣れ親しんだ地域に住み続けたいという人が増えている。

私自身の年齢のせいもあるだろうが、このところ年賀状のやりとりをしていて「住所が変わりました」と書いてくる人が少なくなった。住所変更をするにしても、マンションの部屋番号が変わったとか町内の別の家へ引っ越したという程度で、急に遠い場所へ越すというケースは稀である。私自身もここ十数年というもの、引っ越しで家を移りはしたが同じ町内に住み続けている。

その結果、村社会のように強固な形ではないにしろ、都会でも地域の縁が深まりつつある。現に首都圏の住宅地では、住民が主催する祭りが年を追うごとに盛んになっている。

都会は伝統的な村社会と比べたら「無縁社会」には違いない。だが、そこからさらに無縁化が進んでいるのではなく、実態としてはむしろ有縁化のほうへ向かっているのである。

宗教学者・文筆家 島田裕巳
1953年生まれ。東京大学文学部卒業、東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。放送教育開発センター助教授、日本女子大学教授、東京大学先端科学技術研究センター特任研究員、同客員研究員を歴任。『世界の宗教がざっくりわかる』『創価学会』(新潮新書)、『人はひとりで死ぬ』(NHK出版新書)、『日本の10大新宗教』『葬式は、要らない』(幻冬舎新書)など著書多数。
(構成=面澤淳市(プレジデント編集部) 撮影=小倉和徳)