かつて福澤諭吉は「日本人は西洋科学の精神を学ばなかった」と嘆いた。「自然哲学」という言葉からもわかるように、科学はもともと哲学から派生したものなのだ。

しかし、日本人は「何が自分たちにとって役立つか」という功利性の部分にだけ目を向け、科学のバックボーンともいうべき思想性を顧みることがほとんどなかった。その弊害は、昨今のエネルギー問題にも象徴され、何かアクシデントが起きると、「すべてやめてしまおう」という極端な反応を示すようになっている。

エネルギーを自然界からどう取り出して利用していくかを研究しているのが物理学である。その物理学の仕組み、そして物理学の限界を理解したうえで、エネルギー効率などのデータに基づきながら国のエネルギー政策を決めていくのが本筋だろう。

さまざまな現象を数値で把握していくのが科学の基本なのだが、そういうとすぐに“科学アレルギー”を起こす人が少なくない。複雑な数式を見ただけで頭が痛くなるのなら、グラフでその数式の意味を解説している本を選ぼう。そのグラフが何を意味しているのかが理解できれば十分だからだ。データに基づいた議論が得意となれば、社内でも一目置かれる存在になるはずである。

■科学本来の姿を感じる良書

『挑戦する脳』
    茂木健一郎/集英社新書

いま、脳科学は個々人の脳の仕組みの研究から、脳と脳がつながった「脳社会」「脳ネットワーク」の社会科学的な側面の研究へシフトしている。その脳科学の分野から日本の現状をつぶさに分析していくと、社会全体を覆いつくしている「画一性」「硬直性」も、実は私たち1人ひとりの脳のネットワークによってつくり出されていることがわかってくるのだという。そうした最新の脳科学の研究成果についてソクラテス、ベンサムら哲学者の話を盛り込みながら紹介し、思想性を問う本来あるべき科学の姿を感じさせてくれる良書でもある。