世界のサッカー事情に詳しいノンフィクション作家の田崎健太氏は、国内外の代理人の知己も多い。氏は、優秀な代理人の条件として「コネ・人脈、情報、選手の目利き」の3つを挙げた。

日本代表MF香川(写真)はドイツの代理人トーマス・クロート氏にセレッソ大阪から独ドルトムント、さらに英マンチェスター・Uへの移籍のサポートを受けている。(AP/AFLO、PANA=写真)

「一番わかりやすいバロメーターは人脈でしょう。昔、セレッソ大阪で活躍した元ブラジル代表GKジルマールは、引退後に代理人に転身。問題の多い元ブラジル代表FWアドリアーノを公私にわたって面倒を見た理解者であり、代理人も務めたことでも知られる敏腕です。彼は親切だし、理路整然と話ができる頭のいい男で、世界中を回って人脈を開拓した。人脈の大切さを理解しているのでしょう」

この点は、「仕事はすべてネットワーク」と言い切る野村氏とも一致する。球団・クラブのニーズに、多様な個性・特技を持つ選手をどうはめ込んでいくかが代理人のミッションだ。そこには絶えず変動する選手の〝市場.がある。いい代理人は、換言すればその市場を熟知した者、ということか。

「まず市場を理解する。1億円相当の選手は10億円も貰えない。それを自負心の強い選手に理解させることです。そのうえで他の選手のデータも参考にしつつ、どこでどう活躍したかを検証し、そこで見出したユニークさを武器に、交渉で1億5000万円、2億円に“吊り上げ”るんです」(野村氏)

最後は頭の良さ、と田崎氏も言うとおり、市場を自在に泳ぎ回るには、やはり「○○のGMはこんな選手を欲しがっている」といった質の高い情報を入手できるコネクション、選手の特性を見出す目利きの力、得た情報を精査する力等々が必要となる。

「サッカーの場合、年俸の相場や選手の移籍先は相対的。年2回のシーズンオフにまず大物選手の移籍先が決まり、そこから順々に下のランクの選手が玉突き状態で決まっていく」(田崎氏)

当たり前のことだが、マクロ経済の影響は不可避だ。マンUが支払う香川の移籍金は最大で20億円とも伝えられているが、「2008年9月のリーマン・ショック前なら、少なくとも倍はいったと思う」(田崎氏)。

もっとも、市場を度外視した“ブローカー”が跋扈するのもこの世界の常。「君なら10億円は固い」などと選手を誘っておいて、蓋を開けたら話がまるで違った、という悪例も多いという。