意欲が高くて実績もあげている。そんな有能な女性が、なぜ「できないおじさん」よりエラくなれないのか。人事、社会学……多方面の専門家にその理由を探った。
資生堂執行役員 
アキレス美知子 

1956年生まれ。モルガンスタンレー証券などで人事部門のリーダーとして活躍。2011年より現職。

日本の企業社会でも出世を遂げた稀有な女性社員もいる。その1人が、11年4月に資生堂の執行役員に就任したアキレス美知子だ。

ただし、アキレスは資生堂の生え抜き社員ではない。そのキャリアのほとんどを複数の外資系企業で積んできた。「労働時間ではなく成果で評価される」文化が徹底している企業で、週に3日だけ出勤する人事部長だったこともある。

2人の娘が幼い頃は家事と教育に注力し、仕事は極力抑えたという。娘たちが巣立ってからは仕事に完全復帰し、現在はリタイアした夫が「主夫」として家庭を守ってくれている。

もちろん、楽な道のりではなかった。試行錯誤しながら現在の地位にまで上がったアキレスは、同じく企業組織で働く後輩女性たちの「アンビション(野心)」のなさが気になっている。

「最初は向上意欲が強い女性も、実力をつけて『スター』になることができず、最低限のことしかしない『ワリキリ型』や『安定維持型』になってしまいがち(図3参照)。適切なアドバイスができるメンターが必要です。誰からも嫌われたくない気持ち、自分だけ抜擢されたことへの孤独感は克服しなければなりません。私はメンターの1人に『好かれるよりリスペクトされよ』と教わりました」

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図3 意欲の高い女性社員を「ワリキリ」「安定維持」に向かわせないために

外資系金融の人事部でのキャリアが長かった彼女にとって、日本の化粧品会社で広報やCSR担当の役員を務めるのは未知の世界。そこで背中を押してくれたのもメンターたちだった。

「私自身はもうこれくらいでいいかなと思っていても、『アキレスの成長可能性はまだある』と言ってくれるのです。意気に感じてがんばってしまいますね」

しかし、夫や社外人脈のサポートに恵まれ、日本型の雇用体系から離れた場所でキャリアを積み上げ、女性管理職割合が現在でも22%に達する資生堂で活躍するアキレスは例外的な存在である。女性の出世を本気で応援する日本人男性は、特に中高年では少数派だ。