【俣野】そこで上司に、「それは間違ってる」と諫言したりは……?

【弘兼】そんなことは言わないです。『サラリーマン金太郎』だったら言えますけど(笑)。島耕作は言わないですね。でも若いころの島耕作はそういうこともちょっと言ってたような気がするな。明らかにその人がその仕事をやり続けることで、会社に継続的な損を与えてるなら、やっぱり言わないとダメですよね。そういう人って結構いますからね。あの人がずっと担当しているせいで、ずっと損が出ているという人。

【俣野】サラリーマンとして人間力の鍛え方を知りたい、という相談もあったんです。人間力をつけるというのは難しいのですが、僕は、他人を許せば人間力がついてくると思うんです。人間は自己中心的ですから、自分は許すけれど他人は許さない人が多い。でもその逆を積み重ねることで、人間力がつく気がします。

【弘兼】人の悪口もあんまり言わないほうがいいですね。

【俣野】確かに悪口って、聞こえないだろうと思っていても、なぜか回り回って本人の耳に届くものですね。

【弘兼】人のマイナス面は、思っていても口に出さないほうがいいと思います。僕はある漫画賞の審査員を10年ぐらいやってるんですよ。新人を対象にしたものではなく、プロの漫画家を対象とした、小説でいえば直木賞のような賞です。その審査にあたっては、やはりプロの漫画家が交代で選評するのですが、ある審査員は、「この作品はこういうとこがダメで、こういうところがちょっと物足りなかった。だから結局こちらの作品に決まりました」というような言い方をする。

でも僕は自分が選評するときは、「いろいろ検討した結果、この作品はこういうところがすごくよかったので、これに決まりました」という言い方をしています。もちろんその作品のどこがマイナスか、気づいているんですよ。でも言わない。