把握しておくべきは「Who knows what」

このうち、「知の探索」に関連するのは最後の2つです。たとえば、アマゾンをつくったジェフ・ベゾスは子供の頃から自宅ガレージを実験室のように使い、疑問に思ったあらゆることを試していたそうです。前回取り上げたスティーブ・ジョブズもそうでしたが、疑問に思ったあらゆることに仮説を立てて検証することは、まさに「知の探索」であり、イノベーションを生み出す行為といえます。

さらに、イーベイの創始者、ピエール・オミディアは疑問が浮かんだり、物事に迷ったりした場合、自分の頭で考えるよりも先に、「この問題は誰に聞くべきか」を考えるそうです。前回ウォルマートの例をあげて「模倣こそ知の探索の第一歩」と申し上げましたが、成功した起業家も他人のアイデアを借りることに長けているのです。

これに関連してみなさんに知っていただきたいのが、経営学にあるトランザクティブ・メモリーという概念です。これは、組織にとって重要なことは、「組織全体が何を知っているか」ではなく、組織の各メンバーが「組織内の誰が何を知っているか」を把握しておくことである、というもの。Whatではなく、Who knows whatが重要、ということです。これを個人に当てはめると、まさに「誰が何を知っているかを把握し、その知をうまく借りられる力」となります。

この話で思い出すのが、私の身の回りにいる経営学者、なかでもアメリカで活躍する中国系の学者たちです。私は典型的な日本人ですから、研究でわからないことがあっても、すべて自分で調べようとしがちです。他方、彼らはちっとも臆せず、電話やメールですぐ人に聞く。そうやって自分が知らないことや弱い部分を尋ねまくって材料を集め、いつのまにかきちんとした論文に仕上げるのが非常にうまい。トランザクティブ・メモリーを地でいっているわけです。

余談ですが、トランザクティブ・メモリーの簡単な実践方法としてお勧めする1つは、名刺を活用することです。これは私が実際にやっていることですが、相手と別れたらすぐ、もらった名刺に、日付と、その人はどんな知識があって、自分はその人の何に興味を持ったかをメモしておく。そしてメモのついた名刺を冊子型のフォルダにまとめて見渡せるようにしておけば、いざというとき、彼らに問い合わせることができます。トランザクティブ・メモリーとして彼らの知識を活用できるのです。