日本の受験制度が社会におよぼす実害はなにか。感染症医の岩田健太郎さんは「理系だの文系だのという不要な区別が、若者の学びを歪ませ知性を痩せさせていく」という――。

受験制度が特に苛烈な韓国と日本

なぜ、日本でだけ(あるいは日本で尖鋭的に)「理系」「文系」の区別をしたがるのか。

私はこの最大の遠因は受験制度にあると思っている。

世界的に見て、受験制度が特に苛烈で、かつ公平性にこだわるのが韓国と日本である。他国では大学入学のための受験にここまで学生が血道を上げることはない。学生選抜の方法も多様であり、一発試験のウエイトは相対的に低い。学生選抜の方法が多様であるのは、そもそも「大学入学」が学生の目標ではないからだ。

本来、大学入学は手段であり、目的ではないはずだ。

大学入学後に行う学問こそが、学生の行いたい目標であるべきだ。だから、アメリカなどでは学部での勉強では飽き足らず、大学院に進学する者も増えている。まあ、アメリカは実利主義国家なので、大学院での成果もよい就職先とか、よりよい収入という副産物を目指している場合も少なくないのだけれど(欧州の学生に比較して。私見である)。

バーン・アウトして勉強しない大学生

対して、日本の大学生は海外の大学生に比べて勉強しない。どのくらい勉強しないかについては、拙著『医学部に行きたいあなた、医学生のあなた、そしてその親が読むべき勉強の方法』(中外医学社)をご参照いただきたい。

例えば、東京大学「大学経営・政策研究センター(CRUMP)」の報告によると、日本の大学生の学習時間は授業も含めて1日あたり3.5時間しかない。これは小学生や中学生のときよりも短い。週あたりの「授業に関連する学習時間」もアメリカよりずっと短く、多くは週5時間以下で、まったく勉強しない学生も1割近くいる。アメリカの学生の1割近くが週26時間以上勉強しているのとは大きな違いだ。日本の場合、小学校、中学校、高校の学習時間は割と長いのに、大学生になるとガクッと学習時間が落ちるのが特徴だ。

日本の大学生が海外の学生に比べて勉強しないのは、高校生までに勉強しすぎて疲れてしまっている、場合によってはバーン・アウトしてしまっているのが原因の一つだと考えられる。これは実際、神戸大学医学部の学生を対象として私が行った、小グループディスカッションの質的研究でも示されていた。医学部に入った途端、勉強しなくなるのだ。

ストレスが溜まった人のコンセプトイメージ
写真=iStock.com/tadamichi
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